落葉交通事件
大坂高等裁判所平成31年4月11日判決
事案の概要
タクシー会社に乗務員として勤務している原告が、時間外労働及び深夜労働に関する未払い賃金を請求した事案の控訴審である。本件では基本給以外の基準外手当Ⅰ及びⅡ、祝日手当、時間外調整給、公休出勤手当などが残業代算定の基礎となるかが争われた。
判旨
基準外手当について、時間外労働の時間数とは無関係に、月額の総運賃収入をもとに定められた割合を乗ずるなどして算定されることとなっていること、実際に法定計算による割増賃金を計算したうえで基準外手当と比較されずに給与明細に手当が記載され支給されていること、求人では固定給プラス歩合給が示されており、時間外労働の手当として記載されていないこと、を認定し、勤務時間内にどれだけ多額の運賃収入を得てもそれは固定給に含まれると考え難いとして、この手当については「通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。」とした。
解説
固定残業代については最近までに様々な裁判所の判断がでており、その蓄積によって固定残業代を支払っているのだから残業代を支払う必要はないという考え方はできなくなってきており、固定残業代と基本給を合計したものが割増賃金の計算の基礎となる事例が増えてきている。
その意味で計算の単純化といったメリットはなくなってきており、今後この手法を使うかについては検討が必要な時期になってきていると考えられる。
この判決でも引用されているが、最高裁の判断が基準とされている。まず、通常の労働時間の賃金にあたる部分と労基法37条の割増賃金にあたる部分に判別できることが必要である。そして割増賃金として支払われた金額が適法に計算した割増賃金の金額となっているかを計算しなければならない。そして、支払われた割増賃金が計算した金額よりも少ない場合は差額分を支払わなければならない。そして、時間外労働に対する給与として支払いがされているかは、「雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである」とされる。
本件では全体の売上に応じて支給される手当を除いた部分で安定して支給されている給与部分の金額が少なく、どれだけ個人が売り上げをあげても反映されていないようであった。そうすると、時間外労働をしないで勤務時間内に売り上げを個人があげても給与に反映されないことになってしまうため。基準外手当も基本給に含まれると解釈しないと労働実態と収入が対応しないと考えられたということが言える。
そのため、この基準外手当は判別不可能として割増賃金の計算の基礎となるとされた。実際の給与支給額などとの関係で判断されているので、以前のように手当にしてしまえばそれ以上残業代を支払わないですむということはなくなっている。
ここは給与の規定を作成する際に注意しなければならないポイントとなっている。
なお、祝日手当などについては、休日に出勤したときのみ支払われていたことから、これは判別可能な手当であり、労基法で計算した金額以上であれば支払の必要はないとされた。
概要
固定残業代(本件では手当)が問題となった事案である。実態がどうなっているかが判断基準となるので名称では区別はできず、残業代部分と基本給部分が判別できない場合は割増賃金の計算の基礎とされる。本件では、固定給が低く設定されていたこともあり、売り上げをあげても固定給だけでは低すぎるという事情を判断の要素にした事案である。